日本一の里山林 日本一の里山林をまもるために

黒川の里山林がなぜ日本一なのかという疑問に対して7 つの項目をあげて、日本一の理由を示してきました。しかし、このままでは、能勢電鉄の社員によってよく管理されている奥瀧谷の台場クヌギ林(写真11,12)等を除いて、10 年も経過しないうちに黒川の里山林は消滅しそうです。まず、第一の要因は里山林の管理が不十分な点です。毎年一定の面積のクヌギ林は伐採されているのですが、伐採後の柴刈りが十分行われていないためにアラカシなどの他の樹種にクヌギの生育がおさえられ、クヌギ林が衰退しています。

写真11. 2002 年5月撮影の奥瀧谷の台場クヌギ林(伐採直後)

写真12. 2017 年3月撮影の奥瀧谷の台場クヌギ林(写真11 と12 は同一地点)

また、伐採地周辺に分布するコナラ、アラカシ、スギ、ヒノキといった樹種が大きく生育し、クヌギ林の生育を妨げたり、クヌギ林の景観を大きく阻害しています。県道国崎野間口線の黒川字大上より徳林寺側(谷垣内、大谷)の山地を見るとかつてはクヌギ林の輪伐パッチワーク状景観が明瞭に確認できたのですが、現在は周辺部に生育するヒノキが大径木化して、その景観が見えにくくなっているだけではなく、パッチワーク状景観そのものが失われようとしています。
また、ケーブル黒川駅より大堂川北斜面を見上げるとかつてはこの場所にもクヌギ林の輪伐パッチワーク状景観が広がっていましたが、アラカシやその他の樹木の生育によってパッチワーク状景観とは言えなくなりました。

人の管理の問題だけではなく、シカの食害もきわめて深刻な問題です。台場クヌギより伐採後発生した萌芽枝がシカの食害を受けて壊滅的な状況になっている地点(口瀧谷、大堂など)も少なくありません。台場クヌギが食害を受け続けると枯死しますが、それ以外に菌類によって腐朽し枯死したもの、オオクワガタの採集のために伐倒されたもの、台風によって折れたもの、周囲の樹木によって被陰され枯死したものなど、台場クヌギの個体数の減少も著しい状況です。

日本一の里山林を維持するためには、まずクヌギ林の実態を精査する必要があります。今回、麻生(2018)によってクヌギ林の位置を明らかにすることはできましたが、台場クヌギの個体数、台場クヌギ林の面積、台場クヌギの生育状況など、クヌギ林の現状については十分わかっていません。昆虫や鳥類の生息状況についても調べられていません。
現状を明らかにした上で、シカの食害から護るための防鹿柵の設置、枯損しているクヌギの伐倒除去、病害虫を受けているクヌギの保全処置、クヌギの補植、クヌギ林周辺部の樹木の伐倒、クヌギ林内の柴刈り、昆虫類や鳥類の保全対策などの作業を早急に進める必要があります。また、クヌギ林内の里道の整備を行うことは管理の作業効率を上げるだけでなく、見学者や観光客のための観察路としてもたいへん有効と考えられます。

川西市教育委員会は、奥瀧谷の台場クヌギ林を2017 年に天然記念物指定しました。他の台場クヌギ林も所有者の同意を得て順次指定してゆく予定であり、指定が進んだ段階ではそれらを統合して文化庁の「文化的景観」の指定を黒川全体で受けることができればと考えていますが、それまで台場クヌギ林が維持されているのでしょうか。川西市では2008 年より小学校四年生の里山体験学習を黒川で実施しています。川西市の財産でもある黒川の里山林を子ども達が学ぶことはたいへん望ましいことですが、その学ぶべき里山林、「日本一の黒川の里山林」が消滅せず、次世代の子ども達に引き継がれるよう早急に保全対策を進める必要があります。

参考文献

麻生 泉 2018.黒川地区における台場クヌギおよびエドヒガン分布調査報告書.緑空間計画,堺
深町加津枝 2017. 猪名川上流域の里山(台場クヌギ林), 日本森林学会による日本の林業遺産を知ろう
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服部 保・林 義浩・遠矢良宣・信田修次 2015.猪名川上流域の里山(台場クヌギ)について.森林科学,74:26-27
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川西市史編集専門委員会(編) 1976.川西市史第2 巻,兵庫県川西市,川西
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服部保(兵庫県立大学名誉教授)