日本一の里山林 里山林とは

里山林以前の植生

私達のまわりに広がる里山林は、弥生時代以降、薪、柴、炭などの燃料生産のために人が育成してきた薪炭林(二次林)を指しています。人の手が加わる以前の樹林(自然林)は里山林とはまったく異なっています。本来の植生(原植生)を調べてみると、図1、図2 に示したように、気温条件に基づいて南から北に向かって亜熱帯・暖温帯、冷温帯、亜寒帯、寒帯の順に、あるいは低地部から高地に向かって丘陵帯、山地帯、亜高山帯、高山帯の順に照葉樹林(常緑広葉樹林)、夏緑樹林(落葉広葉樹林)、針葉樹林、高山草原の4 タイプが広がっていました。国内では関東以西の広い地域がかつて照葉樹(常緑広葉樹)の優占する照葉樹林に被われていたことになります(服部 2011, 2014)。

照葉樹林(写真1)は高さ25m、胸高直径1m を超すような大径木のコジイ、スダジイ、アラカシ、アカガシ、モチノキなどの照葉樹より構成される自然林で、林内にはヤブツバキ、サカキ、シキミ、ヒイラギ、アセビ、サネカズラ、ベニシダ、ジャノヒゲ、マンリョウ、センリョウ、ヤブコウジなどの植物が生育しています。照葉樹林は海岸部から低地部に発達するシイ型照葉樹林と、より上部に成立するカシ型照葉樹林の2 つに区分されます。

夏緑樹林(写真2)も照葉樹林と同様に高さ25m、胸高直径1m を超すような大径木から構成されていますが、それらはブナ、イヌブナ、ハリギリ、イタヤカエデ、コハウチワカエデ、ウリハダカエデ、トチノキ、アカシデ、イヌシデ、クマシデ、リョウブ、ナツツバキといった夏緑樹(落葉広葉樹)であることが大きな違いです。照葉樹林は暑い夏をもつ亜熱帯・暖温帯に分布しているのに対して、夏緑樹林は北海道やヨーロッパのような涼しい夏となる冷温帯という気候帯に成立しています。

猪名川流域を取り上げてみると、妙見山、剣尾山、大野山などの海抜600m 以上の山地には夏緑樹林、それ以下には照葉樹林が分布していました(図3、図4)。

照葉樹林と夏緑樹林の境は地域によって異なり、温暖な瀬戸内沿岸の六甲山では標高750m、多雪条件下の但馬地方では400m となります。猪名川流域でも広く分布していた照葉樹林ですが、現在はシイ型照葉樹林(コジイ林)が大阪府豊能郡豊能町吉川の八幡神社、川西市平野の多たぶと太神社、猪名川町木間生の八坂神社などに、カシ型照葉樹林(アカガシ林)が妙見山奥之院に残存しています。夏緑樹林は兵庫県と大阪府の府県境にあたる妙見山山頂にのみ残っています。

里山林の誕生

弥生時代に入ると、人は照葉樹林、夏緑樹林を破壊して、水田や畑の他、燃料生産用の樹林である里山林を育成してきました。照葉樹林、夏緑樹林が自然林であるのに対して、里山林は二次林とよばれています。里山林は各々照葉樹、夏緑樹、針葉樹の優占する照葉二次林(アラカシ林など)、夏緑二次林(コナラ林、クヌギ林など)、針葉二次林(アカマツ林など)に区分できます。

黒川にはこれらの3 つのタイプがすべて分布していますが、クヌギの優占する里山林[延宝検地帳(1679 年)に記されているくぬぎ山]が広い面積を占めています。

燃料生産を継続させるためには里山林の伐採後の再生(更新)、周期的な里山林伐採(輪伐)、里山林の管理(柴刈り)の3 条件が必要となります。
クヌギ林では「更新」方法として萌芽が用いられます。切り株から発生する萌芽を育てて、樹林を「更新」させるのです。

しかし、里山林の「更新」には10 〜 30年という月日が必要です。毎年一定の燃料を確保するためには山を更新年数と同じ数に区分けし、順番に伐採していくと毎年一定の燃料を永久に確保できます。このように順番に樹林を伐っていくことを「輪伐」といいます(図5)。

「輪伐」しても里山林を放置しておくと雑草・雑木が繁茂し、再生がうまくいきません。
うまく再生させるためには雑草・雑木の伐採が必要です。この管理が「柴刈り」にあたります(図6)。

伐採した柴は燃料として用いますので、「柴刈り」は里山林管理と燃料確保を一体化させたたいへん良いシステムでした。桃太郎のおじいさんの柴刈りによって里山林は長い間護られてきましたが、燃料革命以降おじいさんが山に入らなくなったので、以下に示す里山放置林(図7)が広がりました。

図5. 輪伐によるパッチワーク状植生景観

図6. 桃太郎のおじいさんの柴刈り

里山放置林の成立

弥生時代以降、昭和30 年代まで里山林は利用されてきました。ところが燃料革命によって里山林から生産される薪、柴、炭は利用されなくなりました。その結果、里山林は伐採や柴刈りをされることがなくなり、放置されて、ネザサ、ウラジロ、コシダ、つる植物、照葉樹の生い茂る暗い里山放置林(図7)へと変化しました。

黒川のコナラ林、アカマツ林などの里山林も同様です。里山放置林の林内にはアラカシ、ヒサカキ、ソヨゴなどの照葉樹が増加し、コバノミツバツツジなどの夏緑低木やエビネなどの草本類が激減しています。やがては現在のコナラ林などの落葉型の夏緑二次林より生物多様性、防災・減災、環境学習の視点からみて、まったく望ましくないアラカシ林などの照葉二次林へと遷移するでしょう。