黒川の今昔 今もなお残る炭焼き(今西家)

黒川が「日本一の里山林」と言われる大きな理由のひとつは、500 年以上にわたる歴史を持つ一庫炭(池田炭)を現在にいたるまで生産し続け、この炭の原料であるクヌギが生育年ごとにパッチワーク状の景観を織り成すことにあります。かつてはこの地区のほとんどが一家総出で農業と炭焼きを営んでいましたが、1950 年代半ば(昭和30 年代)の燃料革命以降はその数も減少し、黒川で炭焼き農家は今西家1軒を残すのみになりました。

今西家の炭焼き

現在でも炭焼き農家として営みを続け「菊炭生産家」としての家業を継ぐ、黒川在住の今西学さん。かつて豊臣秀吉が池田の久安寺でお茶会を開いた際に好んで使われたという良質なお茶炭は、今も多くのお茶会の炉でお湯をたてる際に使用されています。毎年11 月頃から翌年5 月頃までのクヌギ伐採、炭焼き、そして夏の下草刈りも欠かせません。ここでは炭焼きの仕事の流れを見てみましょう。

写真43. 美しい断面が特徴の菊炭

菊炭ができるまで

❶伐採

毎年11 月末頃からその年に伐採の周期を迎える山に入り、切り出します。またクヌギ以外の周りの木々も手入れとして伐採するため、実際は炭にする倍の量の木を切る。

❷玉切り

切り出したクヌギは、炭窯に入れやすいよう寸法を長さ1m に揃える。寸法を揃えた木々は炭窯へ入れる前に十分に乾燥させる必要がある。

❸炭出し・窯入れ

寸法を整えた木を窯に積み上げる。一回につき窯に入る原木は5 〜6トンほど。この作業は毎年12 月頃から開始する。


❹火入れ

年が明けるといよいよ窯に火をつける。火の加減を見ながら3 日間にわたり750 度もの熱で燃やし続ける。炭は、もとの木と比較すると5 分の1 ほどの重さになる。

❺くど

窯を閉めて酸欠状態にし、窯内の火を鎮火させ、炭を冷却。3 日間の火入れの後、この冷却が4 〜 5日ほど行われる。今西家は「くど」と呼ぶが、「くどさし」ともいう。

❻炭出し

炭を窯から取り出していく作業。くどで冷却したとはいえ窯の中はまだ80 度以上。かなりの重労働かつ危険な作業でもある。


こうして今西家では家族総出、従業員も2 名雇った上で、1 月から5 月までの間に③〜⑥までの作業を10 回ほど繰り返し行います。

里山の保全・炭焼きを続けていく意義

かつて黒川でも鉱山の仕事があった時代(P.31 参照)には金属精錬のためにも燃料として炭が多く必要とされ、また同時にプロパンガス、そして都市ガスが登場する以前には、一般家庭で使用されるエネルギーとしても炭は大きな役割を担っていました。しかし石油、ガス、電気を使用するようになって以降、黒川にかつて戦後の頃まで30 軒ほど存在していたという炭焼き農家は消えていったといいます。つまり、地域の人々が街へと働きに出るようになったため、山仕事をすることで自然とサイクルが作られていた里山自体も、保全の方法を見直しする必要がでてきている時期といえます。そんな中、家業として炭焼きを継ぐ意志と、現代における炭焼きの技術継承、そして販路の拡大など、今西家では現在も検討を重ね挑戦を続けています。

写真44. 煙が出ず香りが良いのでお茶席で好まれる

炭焼きの技術のみならず、原材料となるクヌギを山から切り出すためにはクヌギ林の保全がまず第一。つまり、良質なお茶炭として黒川が誇る「菊炭」をこれからも生産するためには、まず里山林を整備し、良質のクヌギが生育する土地の手入れを続ける必要があるのです。それにはクヌギ林を輪伐し、夏には下草刈りを続け、林を常に若返らすために萌芽再生をさせるサイクルを維持すること。そのことがが昔から続く自然の恵みと共存する里山の生活を保全し、ひいては生物多様性を維持することにもつながっているのです。

写真45. バーベキュー用で使われる菊炭

かつては山中にある共同窯で炭焼きをし、炭にしてから麓へ下ろしていたようで、そういった共同作業のなかで地域の繋がりも深く、黒川の住民の多くが自然と里山の保全に携わっていたようです。「炭」という商品のさらなる可能性を探りながら、今西さんは「菊炭」を支持するお客様を今後も大切にし、里山保全に取り組まれているボランティアの方とも連携しながら里山を使用していきたいと話してくれました。

写真46. クヌギの切り出し

一方、炭焼きの技術は、たとえば火をつけた段階から火を止めるに至るまでのタイミングをひとつとってもまさに職人技としか言いようのない世界。一朝一夕で習得できる技術では決して無いものの、さまざまな見学者がこの黒川を訪れ、今西さんの先代が作り上げた大きな窯を見て、この先の里山利用についての関心を高めているようです。

写真47. 見学者に炭焼きを説明する今西さん

*お問い合わせ

今西農園(菊炭生産家)
住所:兵庫県川西市黒川字大上197
TEL:072-738-0268
URL:http://andalpha.com/imanisi/index.htm

*主な用途

お茶席用道具炭(上質菊炭)
バーベキュー用炭(割れ炭など)
高級土壌改良用炭 他(粉炭や灰など)