キセキの里山・西谷 夏の風物詩西谷のホタル

一般的にはホタルは発光する昆虫と思われがちですが、実は日本産ホタル種は実に多様です。亜種を含めて54 種が知られています。そのうち成虫が発光するのは7 種で、2 種は昼行性で夕暮れにも活動します。あとの5 種が夜行性で強く発光しますが、そのうち3 種が北摂里山の西谷に生息します。

発光中のゲンジボタル

清流の蛍 ゲンジボタル

成虫

一般的によく知られた最も大型のホタルです。成虫のオスの体長は10 〜 18mm で、メスの体長は15 〜 20mm です。全体に黒色ですが、前胸背面は淡赤色で背面中央に黒色の縦条があり、中央で横に広がって十字形になっています。腹部後方には発光器があって淡黄色をしており、オスでは第5、6 節に、メスでは5 節にあります。触ると異臭を放ちます。


腹部発光器 
メスは6 節に、オスは5.6 節に

やや楕円形で、直径約0. 5mm 前後、表皮は透明なキチン質で弾力があります。産卵時はクリーム色ですが、終令近くになると黒っぽくなります。

幼虫

終令幼虫の歩行時での体長は24 ~ 30mm です。発光器が8 節目にあります。刺激を与えると異臭を放ちます。

ゲンジボタルの幼虫

体全体が淡黄色で、幼虫よりも頭、目玉、触角、発光器は著しく大きいです。体長は10 〜20mm で、蛹化後10 日目ぐらいから光るようになります。

生活史

卵→幼虫→蛹→成虫と完全変態をします。西谷では成虫が6 月に発生します。交尾後のメスは水際のコケ類に産卵し、27 日前後で孵化します。幼虫はカワニナ類を食べて水中生活をします。翌年の4 月に、降雨のある夜間を選んで一斉に川土手をはい上がり、土中で蛹化します。

カワニナに喰いついている幼虫

成虫の発生期

水温や気温など気象状況により、発生期は異なります。宝塚では5 月下旬から6月中旬にかけて発生します。気象状況により発生時期が1 週間前後ずれることはあります。

飛翔

成虫の活動にはある程度の飛翔空間が必要です。両岸が植物などで被われたような狭い空間では活動できません。両岸が植物で被われた状態でも、その空間が十分確保されていれば活発に飛翔していることもあります。さらに飛翔のための重要な条件としては自動車のライト、街灯などは禁物です。

ゲンジの飛翔光跡 於・川下川

交尾行動

発光はオスとメスの配偶行動のためのコミュニケーション信号です。オスの同時明滅の発光パターンは約2 秒間隔の西日本型です(東日本では4 秒間隔)。オスがメスを探す行動により交尾しますが、大体植物の葉の上で見つけることが多いようです。産卵 交尾済みのメスは水際のコケ類に産卵します。普通は集団で産卵し、一頭の産卵数が約500 個です。

産卵

交尾済みのメスは水際のコケ類に産卵します。普通は集団で産卵し、一頭の産卵数が約500 個です。

幼虫

水際のコケ類の上で孵化した幼虫は水中に落下し、淡水性の貝類であるカワニナ類を餌にして生活します。大きさ2 〜 3cm に成長した10 〜 12 月は観察しやすくなります。幼虫も夜行性といわれますが、必ずしもそうではなく、昼間にも活動している個体を観察できます。ゲンジボタルの生息環境としては、餌になるカワニナ類が生息していることが必須条件です。

蛹化

月の降雨の激しい日に発光しながら、集団で上陸し、水際の河川の土手などの土中に潜り蛹化します。発光しなから一斉上陸する状況は壮観です。コンクリート三面張りの川では上陸・蛹化することができません。 

分布

1950 年代以降、害虫防除薬、工場廃液、農薬などの影響による水質汚染、河川改修による堤防のコンクリート化、農村ではほ場整備による側溝の改変などによって一時、各地で激減していました。宝塚では2000 年前後から下水道の完備など環境保全対策の改善によって、再び復活してきてます。田園地帯の西谷では、発生数の大小はありますが、主要な河川の本流にも支流にもに生息しています。

田んぼの蛍 ヘイケボタル

成虫はゲンジボタルに似ているが、かなり小型です。成虫のオスの体長は8mm 前後で、メスの体長は10mm 前後です。全体に黒色ですが、前胸は淡赤色で背面中央に黒色の縦条があり、ゲンジのように中央で横に広がらず同一の幅になっています。腹部後方には発光器があり淡黄色で、オスは第6、7 節に、メスは6 節にあります。

やや楕円形で、ゲンジボタルよりもやや大きく直径約0.6mm 前後、表皮は透明なキチン質で弾力があります。終令近くになると黒っぽくなってきます。

幼虫

終令幼虫の歩行時での体長は17mm 前後です。刺激を与えると異臭を放ちます。発光器が8 節目にあります。宝塚では夏期に、水田の中で発光している幼虫を観察することができます。

体全体が淡黄色で、幼虫よりも頭、目玉、触角、発光器は著しく大きいです。体長は10mm 前後です。

生活史

卵→幼虫→蛹→成虫と完全変態をします。通常は成虫が6 〜 8 月に発生します。交尾後のメスは水際のコケ類などに産卵し、27 日前後で孵化します。幼虫は、モノアラガイ類を食べて水中生活をします。翌年の5 月〜 7 月には上陸し、土中で蛹化します。

成虫の発生期

水温や気温など気象状況により、発生期は異なります。宝塚では5 月下旬から9月上旬にかけて発生します。

飛翔

ある程度の飛翔空間が必要ですが、両岸が植物で被われたような狭い空間でも活動していることがあります。一般的には林縁に現れ、発光しているメスを見つけるとオスはかなり遠方からでも飛来します。自動車のウインカーを誤認し、飛来することもあります。

交尾行動

発光はオスとメスの配偶行動のための信号です。交尾は草地や地面で行われます。

産卵

交尾済みのメスは水田の用水路の水際などに生える草やコケ類に約100 個程産卵します。コンクリートの水路などで割れ目や石垣の間などに生える草やコケ類にも産卵します。

幼虫

水際のコケ類の上で孵化した幼虫は水中に落下し、淡水性の貝類であるヒメモノアラガイ、サカマキガイ、カワニナ類を餌にして生活します。この他にマルタニシ、ヒメタニシなども食べます。背光性が強いため、野外での確認は困難ですが注意深く観察すると見られます。

4 月以降に発光しながら上陸し、水際の土手や畦などの土の中に潜り蛹化します。

分布

田園地帯の西谷では水田や側溝などに生息します。田園地帯の西谷ではすべての田んぼや側溝などに広く分布しています。多少水質が低下しても生息できるようです。しかし、自動車の夜間通行量の増加、街灯の増加によって個体数が減ったところが多いようです。

森に棲む貴重種 ヒメボタル

西谷での最初の分布記録は1998 年という新しい昆虫です。成虫は一見ヘイケボタルに似た体長6 〜 9㎜の黒い個体です。前胸背面は赤色で背面前縁から中央にかけて三角形から半円形の黒色の紋があり腹部後方には発光器があって淡黄色で、オスでは第6、7 節に、メスでは6節にあります。黒色紋には変異があり、ヘイケボタルのように明瞭に現れることはなく不明瞭です。ときにはほとんど消失することもあります。体長は地域により著しい変異があります。西谷の個体群は阪神間の都市部個体群ではなく、山地の個体群に属するタイプで、小型です。メスは後翅が退化しており、飛翔能力がないため、分布拡大をはかることがゲンジやヘイケに比べ非常に困難です。発光パターンは2 〜 2.5 回/ 秒で、ストロボ的に発光します。ゲンジやヘイケとは全く異なるので他種と見間違うことはありません。


ヒメボタル オス

ヒメボタル メス

生活史

卵→幼虫→蛹→成虫と完全変態をします。西谷では通常は成虫が6 月下旬〜 7 月頃に発生します。交尾後のメスは土中に産卵し、約1 カ月で孵化します。幼虫はオカチョウジガイやベッコウマイマイ等陸生貝類を食べて陸上生活をします。翌年の5 月頃には蛹化します。

飛翔

林縁の湿潤な斜面で飛翔していることが多いです。発光量は小さいですが、ストロボ的に発光し、明滅の強弱が明確です。ゲンジやヘイケとは明確に識別できます。個体数の多いところでは実に幻想的です。

毎秒2 回ほど発光しながら飛翔するオス

探せばこんな幻想的な飛翔場面に出会えるかも(丹波市で)

分布

阪神間では竹薮、神社・寺院の境内及び周辺の森林に生息することが確認されていますが、極めて局所的です。西谷では波豆の普明寺境内と宝山寺裏の竹林での発見が最初の記録です。次に2006 年の深夜に武田尾(武庫川)渓谷の「桜の園亦楽山荘」(map.B4)で記録しています。その後、新しい生息地は発見されていません。成虫の発光活動時間帯は恐らく深夜と考えられますので、新産地の発見は困難ですが、西谷には最適環境もありますので、精査すれば他にも生息地が発見されると思われます。

武田尾桜の薗では深夜に発光するタイプが生息

ヒメボタルの生息環境

ホタル類が生息するためには成虫が交尾など配偶行動や休息したり、成虫のメスが産卵したり、幼虫が餌を食べ生活する場所、すなわち生息環境条件が整っていることが大切です。ヒメボタルは、餌になるキセルガイ類が生息可能で環境変化のない森林、幼虫や成虫の生活しやすい湿度の高い森林、幼虫の隠れ場所があり、オスの成虫がメスを探す行動ができる飛翔空間があること。オスとメスの交信ができる空間を確保するためには強力な人工照明は避けなければならないなど、環境条件が整っていることが重要です。