キセキの里山・西谷 里山の田んぼと湿地のつながり

田んぼ

里山とは、薪炭利用されてきた里山林を指す言葉として限定的に使われてきましたが、今こんにち日では農地(水田や畑)やため池、水路、茅場、採草地なども含めた農村とその周囲に広がる多様な半自然生態系の複合景観まるごと全体を指す言葉としても使われるようにもなりました(写真1 参照)。半自然生態系とは人間による管理(湛水や貯水、伐採、草刈り、火入れなど)によって維持されている生態系です。いうまでもなく、水田(田んぼ)は食糧生産の場として農村の生活を支える中心的な農地です。田んぼや畦、ため池、水路は、稲作のために人工的に造られた生態系でありながら、湿地や草地の環境を好む多くの動植物の生息・生育場所となってきました。

写真1. 西谷の里山景観。田んぼや畦、ため池、水路、里山林は多くの動植物の生息・生育地となっている

西谷の田んぼの生きものたち

丘陵地である西谷では、豊富な水が集まる谷部を切り開き、ため池とともに棚田や平田が作られ、維持されてきました。西谷の田んぼのまわりでは、サギ類やシマヘビ、ヤマカガシ、トノサマガエル、アマガエル、アカハライモリ、ドジョウ、メダカ、タイコウチ、トンボの仲間などの動物だけでなく、春・秋の七草(セリやナズナ、キキョウやオミナエシ)などの植物といった日本人にとってなじみ深い生きものたちに多く出会うことができます(写真2 参照) 。かつてはどこでも見られたこれらの生きものは、現在、日本各地の田んぼから急速に姿を消しており、中には環境省の作成するレッドリストに掲載されている種もいます。戦後の日本で増えた田んぼの耕作放棄や圃場整備、農薬の使用および宅地開発などに伴う田んぼの消失などが、田んぼの生きものの激減の原因だと考えられています。西谷は、日本で失われつつある昔ながらの田んぼの景観や生きものがみられる貴重な地域なのです。

写真2. 畦や水路も生きものの暮らす場になっている

田んぼと湧水湿地のつながり

田んぼでみられる生きものの多くは、湿地も暮らしの場としてつかっています。西谷では、兵庫県内でも最大規模の湿原群である丸山湿原群を筆頭に、里山林の中やため池周囲に、大小様々な湧水湿地をみることができます。湧水湿地は、周辺の里山林の薪炭利用や敷き柴利用されることで、比較的平坦な谷部が土砂で埋められ、貧栄養な湧き水によって涵養されることで成立する湿地です(詳細は20p) 。人の利用によって維持される湧水湿地は、いわば里湿地ともいえる生態系ですが、セトウチサンショウウオ(旧カスミサンショウウオ)、ハッチョウトンボ、ヒメタイコウチ、イシモチソウ、カキラン、サギソウなど多様な絶滅危惧種の重要な生息・生育地となっています。丸山湿原群で見られるこれらの動植物には、田んぼの周辺、特に棚田上部の畦やため池、水路まわりで、その姿を観察できるものもいます(詳細は22p)。雨水由来の谷水や湧水を利用して湛水する昔ながらの棚田では、ため池周囲や里山林の林縁に、湧水湿地と似た貧栄養かつ湿潤な環境がみられます。

ドジョウタイコウチ

アカハライモリヒメアカネ

写真4. ため池の脇にできた小さな湧水湿地
サギソウの白い花が点々とみえる

全国的に里山林の放棄が拡大する中、湧水湿地はその数も面積も減少の一途をたどっています。また、貧栄養で米の収量が少ないわりにきつい労働を強いる棚田では、耕作放棄が年々増加しています。一方で、緑の革命(稲・小麦などの多収穫品種開発をはじめとする農業技術の革新のこと)の後、耕作されている田んぼでは、大量な肥料の利用により富栄養化が進行しています。西谷の棚田では、貧栄養な湿地環境が奇跡的に多く残っており、多くの絶滅危惧種の避難地となっています。

写真5. 棚田のため池近くでみつけたセトウチ サンショウウオ
(旧カスミサンショウウオ)の卵塊

蝶を捕まえたイシモチソウ